東海北陸自動車道ができてから、秘境と言われたこの地域も楽に行くことができるようになった。何回かこの近くは通っているはずだが、やっとのことでこの木に会う機会が訪れた。
この木は名前の通り、治郎兵衛さんという人にちなんだ木である。先祖代々同じ名前を名乗る旧家のお墓を守るようにして立っている。お墓の写真を写すのはなんとなく憚られるのだが、からりと晴れ上がった天気も手伝って、お墓らしく感じられず、何枚もシャッターを押していた。
今から30年ほど前に初めてこの地を訪れた夏の朝、ちょうど登校日に当たっていたのか集団登校の子供たちに出会った。いきなり「おはようございます」の挨拶を受けた。子供たちだけでない。他の大人たちも同じように、見ず知らずの汚い風体をした旅姿のよそ者に声を掛けてくる。町育ちの自分には、そんなことは初めての経験だったので今でも鮮明に覚えている。このまちの人々は今でも同じように声を掛けてくれるのだろうか。
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